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もう、きみには頼まない―石坂泰三の世界

もう、きみには頼まない / 城山三郎


第一生命、東芝社長を歴任し、経団連会長も務め財界総理と呼ばれた石坂泰三氏の半生を描いた作品。

同じく城山三郎氏の著書「粗にして野だが卑ではない」の主人公である石田禮助氏とも親交があったそうだが、この時代の実業界のトップは本当に迫力のある人が多い。

東大法学部、逓信省のキャリア人生から一転して第一生命に転職し、社長秘書を経て社長に就任する。

その後は、当時労組問題が白熱していた東芝の社長を引き受け、大幅な人員整理を敢行、東芝再建に多大な貢献をした。

「財界総理」と呼ばれるほどの影響力を持つ人でありながら、自らを「平々凡々の人生」と言う謙遜さ。

頼まれたことは、引き受ける。

引き受ける以上は、最後まで責任を持つ。

言うは易し行うは難き。

国鉄の人員整理真っ只中で、国鉄総裁の下山定則が轢死体で発見される「下山事件」があった時代である。

人員整理を請け負う社長の仕事は、文字通り「命がけ」なのだ。


同じく城山三郎氏の著書「官僚たちの夏」では、主人公の風越信吾が産業保護派、敵役の片山や玉木が自由貿易主義派という経済政策での対立が焦点にもなっていたが、石坂さんが経団連を務めていたのもまさに同じ時代であり、バリバリの自由経済主義派であったというのも非常に興味深い。

石田さんと出会うきっかけとなった渡米を機に、国際感覚を養ってきた石坂さんの国際経済観が反映されているのであろう。

この時代の経済政策として、幼稚産業保護論と貿易自由化論のどちらが正しかったのかという問いに正確な答えをだすことは難しいが、少なくとも、いつまでも産業保護だけでは経済は発展しないし、理論的、政治経済的にもいずれは自由貿易が望ましくなることは確かである。

その点で、石坂さんには先見性があったことは間違いないであろう。


タイトルの「もうきみには頼まない」というのは、経団連ビル建設費を工面するため、何度も頭を下げたがなかなか腰を上げなかった当時の大蔵大臣に向けて言った言葉である。

謙虚で勉強家、頼まれたら引き受ける、相手が誰であろうと物怖じせず、それでいて上手く世を渡る狸芸も兼ね備えている。

石田禮助さんにも通ずるところだと思うが、魅力的な人はみなこうした性格を兼ね備えている。

財界総理の名に偽りなし。
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2011.01.20 Thu l 書評 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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